長野日報土曜コラム 令和2年1月25日掲載
161 不安から解放
不安の拾い出し
少子高齢化と言われ始めてからどのくらい経つだろうか。医療技術の発達と健康志向の向上から高齢者は毎年増加するが、出生数は相変わらず減少傾向である。よって少子高齢化がますます加速しながら進行する。
人生100年は現実化し、老後資金2000万円不足は他人事ではなくなった。健康で経済的不安がなければ長寿は喜ばしいが、年金だけでは不足するといわれる昨今経済的不安が高まるばかりである。
せめて逝くときは長く他人の世話にならず、ピンピンコロリと逝きたいと願うばかりである。しかしいくら願ってもこればかりは叶えられるとは限らない。退職後に描いていた不安のない悠々自適生活はどこへ行っただろうか。
退職すると時間に余裕ができたせいか新聞とテレビはよく見るようになる。バラエティーや歌番組にはついていけないが、ニュースや報道番組を特に見るようになった。そこでは政治、経済等の話題が多く不安を感ずることばかりである。
人の関心は自分の見たいものには向くが、見たくないものには向かないといわれる。未来は誰にも分からないので不確実に満ちている。不確実はどうなるかわからないので、当然不安が生まれる。
一方バラエティー番組は笑いながら時間が過ぎていく。おそらく自分が望むのは涙を流しながら笑うより将来のことを案じて憂う姿かもしれない。
また人は危険や恐怖に敏感である。この感覚は人に限らず動物も持ち合わせている本能である。危険や恐怖は不安を呼び起こし、人や動物に闘争・逃走反応を起こさせる。これは命の危険から身を守ろうとする行動である。よって不安に対しては何よりも敏感に反応する。
ヘラヘラと笑っている姿は阿保らしくみっともないが、不安を抱き眉間にしわを寄せているほうが渋くスマートな姿に映るのだろうか。
不安は妄想
不安に感じている事象が現実に起こる可能性はどのくらいだろう。これまでにも不安を感じた出来事は数多くあった。
1970年代に「ノストラダムスの大予言」が流行り映画化もされた。予言内容は1999年7月に人類が滅亡するという内容であった。当時公害問題と核戦争が重なり信ぴょう性が高まった。このような終末思想はその後新興宗教にもみられた。
もう少し現実性のあったのが「2000年問題」である。当時日付を下2桁で扱っていたことから2000年を1900年とコンピュータが勘違いして誤動作するといわれた問題である。
具体的には、発電、送電機能の停止や誤作動とそれに伴う停電、医療関連機器の機能停止、水道水の供給停止、鉄道、航空管制など交通機能の停止などが生ずると懸念されたものだが、心配された事象は一切生じなかったといわれる。
不安は妄想であるという考えがある。目を閉じて見えるのが「妄想」であり、目を開けて見えるのが「現実」である。妄想に対しては過剰に反応することなく、客観的に理解し対応するのが良いとされる。
そうは言っても平常時ならともかく災害時はデマが広がりやすい。目の前で災害が発生していれば、さらなる災害の情報に敏感になっている。こんな時自分が得た情報が正確であるかどうかを確認せずにつぶやいた結果、当事者を傷つける結果になってしまうことがある。
人は不安な情報を他人と共有することで「安心する」ことに加え、「人は見たいものを見る、信じたいものを信じる」からだろう。
不安から解放
不安は単に頭の中の妄想で終わらず、身体に症状として現れる場合がある。発汗、息切れ、めまい、震えなどが症状の一例である。
これは脅威や精神的ストレスに対応する反応であり、人や動物が生き延びるための闘争・逃走反応である。一般に脅威が過ぎ去れば闘争・逃走反応も消えるが、継続して過剰に反応する場合は病気と診断される。
病気に対する治療として認知的行動療法と薬物治療がある。認知的行動療法では考え方の癖が不安を増幅させる傾向があると考えられ、悪いことが絶対起きると信じて疑わない。また最悪の事態が間もなく起きると信じてしまう。
不安はあくまでも妄想であり、その妄想を打ち消すために自信をつけるのが良いとされる。自分にはできる、またうまくいくと信じられれば不安は次第に消えてゆく。
正しい自信のつけ方として妄想しない練習がある。瞑想やマインドフルネスなどである。座禅や胡坐の状態で目を閉じ何も考えない。この時何か浮かんでくるのは妄想である。吸って吐いての呼吸に意識を向け何も考えない時間を過ごすのである。
この際眠くなるようでは身体が疲れているので、休息をとり体調を整えてからチャレンジするのが良い。
もし目を閉じた際に自信が浮かんできたとしたら、それも自信という妄想かもしれない。自信は実際に行動に移してある程度結果が出せ、周囲が認めるようになって初めて生まれる見通しのようなものである。こうすればこうなるという見通しが正しい自信となる。
落ち込んでいるときは外に出たくないかもしれないが、不安という妄想を開放するには外に出て日の光を浴びる、運動する、規則正しく生活する、バランスの取れた食事をするなどから始まるといわれる。
不安とお金
景気を測る指標として経済成長率、株価、金利などがあり客観的データとして使用されているが、その基になっているのが人の感覚だろう。
景気が良くなると思えば企業は銀行から借り入れをして設備投資を行い人の採用を増やそうとする。個人は賃金が増えると期待して住宅、自動車、大型家電の購入や旅行、外食費を増やすかもしれない。
一方景気が悪くなると思えば企業はコスト削減、人員整理を行い、個人は無駄な支出を抑え貯蓄に励むだろう。将来の危険に備えてお金を貯えようとする。
将来の不安に対処する方法は貯蓄と共に保険加入がある。かつて3割未満がほとんどであった地震保険加入率は阪神大震災以降では地域差があるものの5割を超えている。地震保険は火災保険とセット商品と思われるようになった。
最近の自然災害では水害による被害が大きい。火災保険では水害被害を程度に応じて補償しているが、水害危険を目の当たりにすれば厚い補償が選ばれる。
被害に遭われた方は生まれて初めて経験したとか、ここに住み始めて初めてと言っているが、台風が来れば同様の災害がまた発生すると思う。遠くで起きた災害でも自分にも降りかかると不安に感じる。
感じた不安から将来に備えようとお金を貯める。実は貯蓄額が増えようとも不安を解消するには至らない。さらに貯蓄を増やしたら、今度は使って減ることに不安を感じ使うことができない。
無駄なものに浪費するより将来に備えるほうが有効であると思いながら使うことができず貯められたお金は次世代にバトンタッチされてゆく。
人の欲求と同様に不安も人が描く妄想であり無限大であるからお金で宛がうことは難しい。
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